サマーフィルムにのって
中学生・高校生に観てもらいたいと心底願う、伊藤万理華の青春ドラマ

(C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会
出典:公益財団法人ユニジャパン
三隅高校のハダシ(伊藤万理華)は、恋愛映画に明け暮れている映画部の中で時代劇オタクとしてひとり浮いていた。そんな彼女には、『武士の青春』という自作脚本があるものの主演俳優が決まらず思い悩む日常を過ごしていた。そんなある日、時代劇の主役にぴったりな男子、凛太郎(金子大地)と映画館で出会う。ハダシはすぐさま仲間を集め、時代劇を撮ろうとするのだが、凛太郎は出演をOKしてくれない・・・。
なんとか思いも通じ凛太郎に出演をしてもらえた矢先、凛太郎は未来からやってきた青年とわかる。未来でのハダシは巨匠として映画界で認められており、彼は行方不明になっているハダシの初監督作品を見に現代にやってきたと説明する。未来の映画では5秒が主流で、1分は長編になると聞きハダシは失望する。本作の物語は、隅々まで計算されており、論理に矛盾がない。つまり映画の構成が見事だ。
まず初めに、時代劇オタクのハダシが、周囲を巻き込みながら自分が納得する映画を作るまでの過程を中学生や高校生にぜひ見てもらいたい。主演俳優を見つけた後、すぐに親友のビート板(河合優実)とブルーハワイ(祷キララ)に声をかけ、映画スタッフを集めはじめる。自転車を派手にデコレートする小栗は照明係として、野球のキャッチャーミットの音だけでどの投手が投げたかわかる特技を持つ増山、駒田には録音係として、卓越とした朗読力と高校生とは思えない容姿を持つダディーボーイには凛太郎の敵役として、スカウトする。目標を決めたら一途にひた走るハダシの行動力は参考になる。適材適所を忘れないのが肝だ。
二番目に、映画部では毎年部員の投票により制作する作品が決まる。今年度は、花鈴(甲田まひる)が監督、主演するキラキラ恋愛映画『大好きってしか言えねーじゃん』が選定され撮影も進んでいる。ハダシはビート板から背中を押され、部活外、自費で映画を撮ることにする。皆で引越しのアルバイトをしてお金を貯める。部費が出なくても自ら資金を貯めて作ると言う覚悟に賛同する。
三番目に、花鈴の映画は映画部の撮影機材、照明機材、業務用三脚などを使い、大勢のスタッフにも囲まれ、恵まれた環境で撮影が進む。一方ハダシの映画は、カメラはスマートフォン、三脚はハンディタイプ、その他の機材はほぼ自作である。こんなところも重要だ。恵まれた機材などなくても、身近にあるものを工夫して活用すると言う自主制作の精神に感銘を受ける。
四番目に、ライバルとして映画作りを競う花鈴に大きなピンチがやってくる。主役のゆうたろうの元カノ役が合宿中、失恋のショックで倒れ救急搬送されてしまい役者がいなくなる。そこにはバリバリの剣道部であるが、実は胸キュン漫画に恋するブルーハワイが代役を務め無事撮了する。ハダシの映画もラストシーンを急遽変更することで撮影時間が足りなくなる。それを知った花鈴は「私たち借りは返す系集団だから」と言って映画部の仲間とともにハダシの撮影を助ける。その後、部室での編集作業では初めハダシと花鈴は背を向けているが、最後はお互いの作品をリスペクトし合う。お互いの個性を認め合い、多様な価値観を共有して文化祭では2本立てで上映することになる。
「愛する人や映画に対して真剣に向き合い、誠の思いを大事にすべき」というのがメイン・テーマだ。ブルーハワイは胸キュン漫画が大好きなことを隠し続けていたが花鈴の映画で解放された。イケメン嫌いのビート板はレンズを向けることで次第に凛太郎に引かれていったが、ハダシと凛太郎の思いを知り失恋を受け入れる。しかし、ハダシは凛太郎が好きになってしまったけれども、本人には言えないまま上映の日を迎えることになる。
文化祭での上映会が始まる。『大好きってしか言えねーじゃん』は万雷の拍手を受け花鈴は達成感で包まれる。次は『武士の青春』の上映、ハダシは映画のラストシーンのところで、完成したラストが自分の求めていたラストと違うことにはっきり気づき上映を止めてしまう。
サブ・ストーリーである映画作りの過程において、最高のメッセージはラストの殺陣に凝縮されている。映画を止め、ラストシーンを作り直そうとするハダシの目的にすぐさまハダシ組全員は反応し、倉庫から大量の箒を持ってきて床に放り投げる。それを花鈴の掛け声で、映画部の仲間が刀がわりにつかみとり斬り合いが始まる。今できること、今あるモノを代用して映画の小道具として生かすことこそ、中学生や高校生に感じてもらい、実践してほしいと思う。無い物ねだりをするのではなく、自ら考えて、進んで、近くにあるモノを創意工夫したり、対応したりして諦めないことが重要なのだ。これこそ全編に貫かれている哲学である。
最後に、このシーンを差し替えることで、ハダシの映画は荒唐無稽になるだろうが完成度を求めていない。ただただ真実の心で相手に向き合うことを訴求している。そして、告白と共に最後のセリフを呟く。綿密に計算され尽くされたラストシーンである。
2023年4月




