選挙
―ドキュメンタリー映画のフレームと作者との境界線が消えて―

" ヒヤシンス 花言葉 『勝負』 "

出典:公益財団法人ユニジャパン
ビデオで撮影したドキュメンタリー映画は、やはりビデオ的な作品だった。この作品の肝となるべき面白さは3つある。第一は、この作品自体がメディア・リテラシーの教材になりうるところだ。自民党公認の市議会議員候補を徹底的に追うドキュメンタリーだけに、民主党、共産党など他陣営の選挙活動シーンは、ごく短いカットを挿入するだけで、そのシーンの少なさから自民党の圧倒的優位が印象づけられる。しかし、実際ふたを開けてみると民主党との差は千票差、薄氷の勝利に終わる。我々観客は選挙結果について、地元の組織ぐるみの応援や小泉首相(当時)や橋本聖子、荻原健二、石原伸晃などの著名政治家による選挙応援を見ることにより、どこかで先読みし、当落についてはどこか安心感をもって作品を見守っている。しかし、それらはまやかしで、当たり前のように画面には出てこない他陣営も自民党に負けず劣らず選挙活動に心血を注いでいたことが、選挙結果からあきらかになる。スクリーンに映っている映像がすべてだと思い込む映像の魔力がそこに露呈する。
第二は、“選挙”という題材と主演=候補者の山内和彦の人柄である。結果がわからない選挙活動の過程を映像化したこと。東京大学を卒業しているからといって特別な人間として描くのではなく一般人の代表として被写体を捉えたことである。ドキュメンタリーの醍醐味のひとつである、被写体に寄り添い、先読みしながらも当選するかどうかわからない選挙活動を追う展開は興味津々で、無意識に山内氏に感情移入してしまう。そこで本人が怒られたり、励まされたり、アドバイスされたりしながら、候補者は自ら育っていくのである。
第三は、車の中での奥さんとの口論。「主人が議員になったら会社を辞めたほうがいい」と支援者に言われた奥さんは激怒する。それをなだめる夫=候補者山内和彦。奥さんは賢い人だと思われるので、頭の中では主人に怒っても仕方がないとわかっていても、その愚痴を、山内にではなく、カメラマン(作者)の想田和弘に聞いてもらいたいのだと推測する。だからビデオは面白い。被写体を切り撮っていくカメラマンがいつの間にか、家族の一員のようになり、言わずもがなの不平、不満を聞いてもらいたい相手へと変容するのである。そのシークエンスこそビデオ的なシーンとして記録されるものである。見えない撮影者の存在が、空間の中で浮かび上がっていく瞬間、つまり、スクリーンの外側にもう一人の存在を私たちがこの短いシーンで発見するのである。
選挙の裏側を活写し、笑いや悲しさも持ち合わせたユニークな作品に仕上がったが、ただ単に滑稽な昔ながらの日本社会の縮図として映画を位置づけるだけでなく、リテラシー教材としても活用できる作品である。
2007年7月



