湘南市民メディアネットワーク代表 森康祐さんに聞く

湘南映像祭は、地域に密着した映像祭を標榜しており、そこに住む子どもたちがつくった作品や地域の人たちが自分の暮らしている街や文化をテーマにした作品、また地域社会の問題提起や解決策など地元に密着した作品を積極的に募集しています。湘南映像祭を主催しているNPO法人湘南市民メディアネットワーク代表の森康祐氏にお話を聞きました。

去る2月21日に藤沢産業会館で、第5回目の湘南映像祭が開かれました。今回森さんは湘南映像祭の新たな取り組みと人材育成のため、NPOスタッフの加藤さん、大久保さんに事務局側をまかせ、後方支援に回った形になっています。

―湘南映像祭を立ち上げた目的は

一番初めは目的などなく、しいてあげれば、最初の発想は小津安二郎監督の映画を上映することが目的でした。足をけがして入院したときに同室だった坂本さんと意気投合し、映画上映について語り合いました。しかし、小津映画は敷居が高く実現出来ませんでした。

―そこで新たに考えたのが、映像祭をやることだったのですね

本当は映画をやりたかったのですが、それ以上にきっかけになったのが、1年間仕事で三重県に単身赴任で行っていて、2人の若者と出会ったことです。ひとりは、晩飯によく通っていた定時制高校に通う居酒屋の息子。もうひとりは、地元社長の息子で、引きこもりだった立命館の大学生とともに映像制作をしたことが参考になっています。彼らとビデオを撮っているうちに定時制の教頭先生が出てきて学校に呼ばれました。何事かと思い、学校に行くと夜間定時制高校の最後なので「文化祭で映画を作って上映したい」ということでした。

―それが子どもと映像制作を結びつけるきっかけになったのですね

第一回目の予算は、会場費の1万円だけでした。賞品はビクターさんのビデオカメラと江の島急行電鉄に行って、江ノ電カレンダーをもらってきました。江ノ島の土産物屋に行って、煎餅をもらってきた記憶もあります。第1回は79本の作品が集まりました。湘南地域の高校を回り、さらには地域の制作者を回って作品を集めました。とくコネクションはありませんでした。

―第1回目は、湘南市民テレビ局が主催ですね

いえ、違います。第1、2回は『湘南映像祭』という任意団体を藤沢市に登録して行いました。湘南市民テレビ局と共催という感じでしょうか。NPOとしての開催は3年目からです。NPOの設立は、平成19年5月25日ですから。

―映像祭を実施してわかったこと、進化したことはなんですか

4回目の湘南映像祭では、これまでのように、がむしゃらな努力はしませんでした。参加する人、出てくる作品も想定どおりで、新しい作品が出てこない。モチベーションも上がらず、何のためにやっているのかわからなくなりました。こんな感じでやっていてよいのか?同地域では『鎌倉映像フェスティバル』も出てきた。『東京ビデオフェスティバル』は世界の映像を見る価値がある。自問自答する毎日でした。地域の人ともっと関わりたかったが、地域の人は来ないし、映像を見るといっても、作った人が見ているだけで、それが地域に貢献していると言えるのか?そうであるならば、映像ワークショップに力を入れたほうがいいのではないか。そうしたほうが地域や人ともっとホットな関係が保てるのではないかなどいろいろ考えました。決定的な事柄としては川又昴(たかし)さんとの出会いは大きかった、川又撮影監督さんのやっていることは実に市民メディア的でした。映画館に自分たちの映画を野村芳太郎監督と一緒に何度も見に行って、お客さんの入り、反応を最後列で毎回チェックしたそうです。

―映像制作の魅力は

映像作りは、撮ることや編集にものすごく時間がかかること。その大変なことに意味があると思います。まず、学生は自発的になる。自分から映像を作りたいとやって来た学生は、自ら大変なことを進んでやっている。映像は自己表現のツールになるので、テーマ性やメッセージ性よりも自分の思い、考えを自由に出させてあげたい。

進化したことといえば、人が集まってきたことです。映像祭は広報のひとつになりました。また、映像祭で藤沢市からも助成金をいただきました。派生的な発展としては、WEB放送、ワークショップ、シネコヤなどの活動もあります。

「映像を使った地域活性化って難しいな」と、スタッフの添田さんともよく話をするのですが、映像祭単体ではまだまだ盛り上がりに欠けるので、地域のお祭りやイベントのなかで、映像祭をやるとかアイデアが必要だと思う。著名な審査員のいる映像コンテストは必要です。子どもたちの中にも有名な映画監督に見てもらいたいと意思を持って作っている子もいるし、欲望もあります。対極的に、地域の映像祭は、地域で作った作品を地域の人たちが見て、知り合いの子が作ったから、親戚の子が出ているから、あの作品に一票を投じる。八百屋の親父さんが野菜を1か月分あげるとか、ラーメン屋の主人が餃子の無料券をあげるなどの賞品があってもいいと思います。

―森さんの個別の活動もありますね

僕は藤沢清流高校の美術の授業で23名に映像表現を教えています。新3学年生で、今回は社会人聴講生も来るらしいです。
教育現場で映像を作るのも、先生たちにとっては事故の心配など難しい面がたくさんあります。しかし、外部組織を作ってやっているところもある。例えば、今年、辻堂青少年センターの映像制作ワークショップで、10人の定員のところ24人の応募ありました。機材の都合で全員の受講は無理なので14人に絞って実施します。4月から毎月1回、夏休みは2~3回で地域の映画を作らせます。

―NPO映像祭について教えてください

神奈川県のNPOの世話人会で映像祭をやろうと言わなければよかった。あくまで今回は県が主催ではないので予算がつきませんでした。会場費と募集チラシ制作は持ってくれましたが、ほとんど世話人会のNPO団体の持ち寄りでやっています。この映像祭の目的は、極力お金を使わないでNPOをもっと広報することです。NPOの定例情報交換会では、広報力がないNPOは生き残れないと言っています。だから視覚的で、情報量の多い映像で自分たちのPRビデオを作っていきたい。「出口があるのでみんなで作りましょう」と呼びかけています。クオリティが高くなくてもいい、写真10枚の組み合わせでもよいからNPO紹介ビデオを作って、公開していくお手伝いをしていきたい。

―NPOの役割はますます重要ですね

社会的な問題をすこしでも解決していきたい。問題や課題を解決するためにはコストがかかります。就労と引きこもりは、いま大変な問題になっています。NPOが就労施設を作って、お好み焼き屋やパン屋など、株式会社にして事業で引き受けているところもあります。うちはコンテンツが作れます。あらゆるメディアがクロスして、なんらかの就労のひとつになると信じています。今年から神奈川県と一緒になって引きこもり対策の事業を行います。ワークショップで出来た映像を心理学者やその関連の専門家に見てもらい、映像制作過程と完成した作品の中から引きこもりの子どもたちとの関係性をみつけていきます。むかしTVFで『レモン』という日系ブラジル人少女の自分を振り返る作品がありました。DCTV津野敬子さんにインタビューしたとき、DCTVでもまず自分自身をテーマに作品を作らせるとおっしゃっていました。自己の映像をつくる、自分のことが映像化できれば、基本的に引きこもりではなくなるはずです。

小田原市の『NPO法人子どもと生活文化協会』の安田先生が、4月24日から一週間の予定で引きこもりや不登校の生徒を連れて“奥の細道”(深川から日光)を歩きます。1日30キロを歩くそうです。この『奥の細道プロジェクト』は、不登校やニート、引きこもりになってしまった若者に新しい生き方や考え方を発見させる旅になります。

―今後の夢は

一番の目標は教育の中に映像教育を入れる活動をしていきたい。学校の授業でメディアを教え、学校の中で自分を知るため、理解するためにメディアを使いこなしていく。映像教育のプログラミング、教材・資料などを作り、きちんとした授業の中に映像を取り入れる取り組みをしていきたい。映像は、キャリア教育になるし、社会に出るためのツールになる。そのためにワークショップを徹底的にやっていきます。

第1回湘南映像祭応募総数 79本
第2回湘南映像祭応募総数 109本
第3回湘南映像祭応募総数 196本
第4回湘南映像祭応募総数 139本
第5回湘南映像祭応募総数 120本

NPO法人 湘南市民メディアネットワーク
http://scmn.info/
 http://scmn.info/cn20/pg130.html
NPO法人子どもと生活文化協会
http://www.clca.jp/index.html

後記
森さんとは6年来のお付き合いです。湘南映像祭とNPO映像祭の審査委員を委任されており、事務所に行ったときなど映画・ビデオ談義でいつも盛り上がります。審査委員として知名度や実績など他の先生に及びませんが、その分ノミネート作品は何度も何度も視聴して審査に臨んでいます。真剣に作品に向き合うことが自分にとって一番の勉強になるし、いい作品を選考することが機会を与えてくれた森さんへの恩返しだと思っています。

2010年3月12日 湘南市民メディアネットワーク事務所にて