ドリーム HIDDEN FIGURES

ー差別が無くなる世の中へー

" ツワブキ 花言葉 『困難に打ち克つ』 "

(C)2016 Twentieth Century Fox

2016年制作、セオドア・メルフィ監督作品、原題『HIDDEN FIGURES』、邦題『ドリーム』。映画好きのあいだでは、配給会社の邦題のセンスに疑いを持つことがよくあるが、本作もご他聞に漏れずこれからも記憶に残り、引き合いに出される一品になるだろう。しかし、本作においては不名誉というよりむしろ名誉に近いと私は思っている。何故ならば、本作は演出、撮影、編集、プロダクションデザインなどあらゆる分野で完成度が高く、永遠に残る傑作だからである。

1950年代後半、米ソ冷戦を象徴する宇宙開発競争が幕開けした。ソ連のスプートニック計画は、1961年4月21日にユーリー・ガガーリンが初の有人宇宙飛行に成功し、人類初の地球周回軌道を実現した。後を追ってアメリカのマーキュリー計画は、アラン・シェパードとガス・グリソムが立て続けに有人宇宙弾道飛行に成功した。そしてついにジョン・グレンがアメリカ人初の地球周回軌道飛行に挑むことになるが、そこに至るまでにはあらゆる困難が待ち受けていた。その困難を取り除き、打ち破る過程にアフリカ系アメリカ人の3人の女性が、陰で大きく貢献していたのである。

NASAラングレー研究所宇宙特別研究本部では、ロケットの発射から帰還までの軌道計算式ができずに苦しんでいた。そこのトップであるアル・ハリソン(ケビン・コスナー)は、研究所の職員で解析幾何学が出来る人間を探すよう部下に指示し、そこに配属されたのが、西側計算グループで働いているキャサリン・G・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)だった。また、友人であり、仮の上司であるドロシー・ヴォーン(オクタヴィア・スペンサー)は、西側計算グループの業務が停滞しないように所員のマネジメントを一手に引き受けていたにも関わらず、一向に昇進の通達もなく、心に不信を抱えたまま管理職になる辞令を待ち焦がれていた。もう一人の仲良しメアリー・ジャクソン(ジャネール・モネイ)は、ハンプトン大学で数学と物理化学の学位を持っていたものの、自分の能力を最大限に生かすべく正規エンジニアになる夢を持っていた。

ロケットが有人で地球を周回し、地球に戻ってくるためには、失敗は許されない。宇宙飛行士の人命がかかっているからだ。主役のキャサリンは、有人でロケットを宇宙に飛ばすことを目的に日夜軌道計算をしていた。しかしその目的を達成するには労働環境が最悪だった。1960年代初頭でも露骨に有色人種に対して差別が残っており、白人が働く東側エリアには、有色人種用のトイレがなく、キャサリンは往復40分かけて用を済ませていた。暗黙のルールの中で、白人でないと管理職になれないとか、正規エンジニアになるためには、白人が通う学校で養成プログラムを受講しないといけないとか、個人の能力や才能とは違うところで差別がまかり通っていた。それを一つ一つ彼女らの努力と知恵で乗り越えながら夢を叶えていく過程が見事に映画的表現で描かれている。

映画的表現とは、すなわち反復と差異の再現によるテーマのあぶり出しである。キャサリンが西側計算グループの建物と東側計算グループの建物を何度も往復するシーンは、業務を進める上で不効率で、人権的にも見るに耐え難いが、ラスト近くでは白人のサム・ターナー(カート・クラウス)がエスコートして伴走するシーンに繋がる。また冒頭の少女時代、黒人の先生からキャサリンがチョークを受け取り高校生の問題を黒板で解くシーンは、国防総省の会議で着水位置を算出するよう白人のアルからキャサリンにチョークが手渡されるシーンで差異を持って再現される。この場面こそがこの映画のテーマの一つである。隠れた人物が正しい評価のもと、表舞台に立ち活躍する場が与えられるのである。

女性たちは仕事の困難よりも差別による困難が足かせになっていることを日々憂いている。この映画の二つ目のテーマが、「女性たちが自らの才能と努力により人種差別を打ち破り、自らの夢や希望に向けて扉を開き、平等の地平に着くこと」である。そのテーマを描くために、人物を重層的に配置し、窓や扉やガラスや鏡を象徴的に映し出す。

例えば、IBMコンピューターが納入されるときに本体が大きくてドアから入らないが、巨大ハンマーでドアを破壊することによって設置が可能になる。それはアルが西側計算グループにあるトイレの差別看板(有色人種用)をバールで叩きこわすシーンに繋がる。メアリーが裁判で白人学校への入学を勝ち取り、興奮して裁判所のドアを開けて出てくるシーンは、ドロシーがIBMコンピュータプログラミング言語FORTRANを使いこなし、IBMスタッフから仕事をオファーされ、敵役のヴィヴィアン・ミッチェル(キルスティン・ダンスト)から辞令をもらい、同じ職場で働く黒人の仲間たちと西側計算グループを出て宇宙特別研究本部に向かうシーンに繋がっていく。そういえば、ドロシーがFORTRANの本を図書館から拝借した時もドアから警備員に押し出されていた。

黒板は映画的暗喩でスクリーンを意味するが、少女時代の黒板シーンやアトラスの軌道計算式を解明したときにアルやポールが黒板を見上げるシーンは、国防総省での黒板シーンで完結する。1箇所に集められた参加者全員が一つの黒板を、我々が映画を見るように注視し、話し合う。それこそまさに映画である。

先々キャサリンの夫になるジム・ジョンソン(マハーシャラ・アリ)の女性蔑視発言はここでは取り上げないが、プロジェクトリーダーのポール・スタフォード(ジム・パーソンズ)のラストの行動にも核心のテーマが満ち満ちている。製作スタッフ全員が人種、性別、宗教にとらわれず、人それぞれが持つ黄金の能力を発揮し、一致協力して物事に挑戦することが、大いなる結果に繋がることを証明して見せたのだ。

二人の娘を持つ親として、この映画は子どもの未来を託す映画であり、二人に伝えたいメッセージそのものである。

追記:
ケビン・コスナーが度あるごとに、チューイングガムを食べるシーンが映し出されるが、ガムは大戦中、兵士の保存食にもなっていたようだ。すなわち、アルことケビン・コスナーは兵士ではないが、気持ち的にはいつも戦場で戦っている人間の一人として現場で働いていたのではないかと推量するのである。

2019年1月

出典:20世紀スタジオ 公式チャンネル https://www.youtube.com/watch?v=cOw2BMDcFag&t=81s