グリーンブック GREEN BOOK

" サザンカ 花言葉 『あなたと二人で旅をしましょう』 "

中学2年の時に同級生に薦められテレビで映画を見るようになって日も浅い頃に見た映画が、ジョージ・スティーブンス監督の『ジャイアンツ』だ。映画ファンでなくてもジェームス・ディーンやエリザベス・テーラーの名前は聞いたことがあるだろう。ロック・ハドソンの奥さん役であるエリザベス・テーラーに横恋慕するジェームス・ディーンの気持ちは、思春期の子供ながらによくわかる気がした。ディーンが油まみれの姿でテーラーに告白するシーンやテーラーの無条件の美しさにうつつを抜かしながらも一番心に残ったのは、ラスト間際のレストランの件だ。メキシコ系の家族がレストランに入ってすぐに店主のアメリカ人に追い出されるところを目の当たりにしたハドソンが店主の素行を止めるために格闘になるが、最後はハドソンの身を挺した行動に店主が心動かされ“当店はお客を選ぶ権利があります”の看板を外すところだ。それは、『ドリーム』のケビン・コスナーにもつながるし、本作品の『グリーンブック』のヴィゴ・モーテンセンにもつながる行動である。
時は、1962年(筆者が生まれた年だ!)黒人ピアニスト、ドクター・ドナルド・シャーリ(マハーシャラ・アリ)は、週125ドルでトニー・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)と運転手兼ボディガードの契約を結びアメリカ南部へ演奏ツアーに出発するが、その演奏ツアーには数々の試練が待ち受けていた。二人は、それらの試練を志しと不屈の精神、ときにユーモアで乗り越えていき、厚い友情で結ばれる。タイトルの「グリーンブック」とは、有色人種専用の宿泊リストで、どんなに芸術的に才能があるアーティストでも、地域の風習や因習で白人施設には宿泊できない。
ドラマは、家族との生活を守るために信条に反してまでも演奏ツアーに帯同したトニーと人種差別に勇気を持って立ち向かったシャーリーのエピソードを入念に語っていく。宿泊施設の近くの酒場に一人で飲みに行き、町の不良たちに暴行されるシャーリー。スタインウェイのピアノを準備しないコンサート業者を殴りつけるトニー。白人とホテルにいたことでポリスに掴まり拘置所に入れられるシャーリー。大雨の中での職務質問でイタリア系を馬鹿にされ、感情を抑えきれず警察官を殴ってしまうトニー。庭の裏にある有色人種用の汚いトイレしか使わせない町の名士に対して、反骨心から宿泊施設まで戻って用を足すシャリー。演奏するホテルのレストランで、慣習であるからと食事を断れられるシャーリー。
ロード・ムービーを支えるエピソードはこれだけではない。映画が面白くなる要素の一つとして、飲食物が美味しそうに描かれているかどうかは大きなキーポイントにもなる。ホット・ドックの大食い対戦や奥さん(リンダ・カーデリーニ)がシャーリーに作ったサンドウィッチをトニーがパクついてしまったり、本場ケンタッキー・フライドチキンを介したやり取りも楽しい。さらに、ホテルのベッドでファストフードのピザをほおばるトニーの姿も印象深い。人間の本能をくすぐる要素が映画に詰まっている。
ラストは言わずもがなの展開となり、そして描かれていた旅の伏線が解放され心温たまる。世界中に根づく現実との乖離に批判があるのかもしれないが、全世界でこのような人種差別や排除がいまなお跋扈している中で、全世界の老若男女にメッセージを送ることこそ映画の存在意義がある。映画のテーマである人種差別の現状を打破するために、分かりやすく収れんすることになんら異論はない。むしろ賛成である。2019年アカデミー賞で作品賞、脚本賞を受賞し、社会から差別と排除をなくすことを目的とした映画に心から乾杯したい、カティー・サークで。
2019年3月



